塗装・塗料のコラム

阪神佐藤興産株式会社

2016
7.6

近代塗料の夜明け(その3)

こんにちは!ぬりかえDrの技術顧問、プロッサーKです。

 

今回は我が国の近代塗料の夜明けの(その3)をお話しいたします。
近代塗料の夜明けの話を深く掘り下げ過ぎ、(その3)までになってしまいましたので、少しスピードを上げたいと思います。

 

 

 

合成樹脂塗料の時代へ

 

19世紀に入り塗料の樹脂は高分子化学が目覚ましい発展を遂げ、天然樹脂塗料から合成樹脂塗料の時代に入ってきます。

 

合成樹脂とは天然の材料を使用せずに、人工的に合成された高分子化合物のことで、ポリマー・プラスチックとも呼ばれ、その多くは熱をかけると柔らかくなる熱可塑性の特徴があります。
塗料として最初に使用された合成樹脂は1907年にアメリカで工業化に成功したフェノール樹脂で、天然樹脂のセラックニスの代用として使用されました。

 

塗料の近代化に革新的な役わりを果たした塗料と言えば、その後に開発されたニトロセルロースラッカーとアルキッド樹脂塗料であったと言えます。

 

20世紀に入りアメリカで自動車産業が開花するのですが、その頃の自動車塗料は油性塗料を使っていました。エナメルなどの油性塗料は耐候性に乏しく、塗料が乾くのに数週間もかかるため生産が極めて困難な状態でしたが、1923年にデュポンが開発した低粘度ニトロセルロースを使ったラッカーと吹き付け塗装法の開発により、それまでとは比較にならないほど生産を高めることが可能になり、自動車産業は急速に成長を遂げます。

 

また、アルキッド樹脂は1901年にイギリスで初めてグリセリンと無水フタル酸からフタル酸グリセロールの工業化に成功し、その後に天然油と反応させた油変性アルキッド樹脂の発明により塗料への道が開けて、一挙に合成樹脂塗料の時代に移行することになります。
油変性アルキッド樹脂を用いた合成樹脂調合ペイントは、近年までの長きにわたり建築物、構造物、船舶、重機など広範囲において使われました。

 

 

 

ニトロセルロースの話

 

ニトロセルロースラッカーの原料となるニトロセルロースは、我が国がまだ江戸の末期の1832年にフランスで綿と硝酸を混ぜ合わせることによりニトロセルロースが得られることを発見されたのが最初です。その後1845年にスイスで、硝酸だけでなく硫酸との混合酸で木綿を処理する製法を見つけ、安定した品質のニトロセルロースが得られるようになります。

 

ニトロセルロースは組成に多くの酸素を持っているため、火がつくと爆発的に激しく燃えることから当初は火薬として重宝されました。それまで使われていた大量の煙をあげる黒色火薬と違い、威力が強くほとんど煙を出さないことから無煙火薬と呼ばれ第一次世界大戦で使用されますが、戦争の終結で大量に余ったことから、火薬メーカーは別の用途への展開を余儀なくされます。

 

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その一つが自動車塗料の分野で、火薬メーカーであったデュポンが1923年に塗料に適した低粘度タイプのニトロセルロースの作り方を偶然発見します。低粘度タイプは今までの高粘度タイプに比べて樹脂の濃度が増し厚い塗膜が得られるため、光沢など仕上りが良くなり塗る回数を減らせるメリットがあります。
デュポンは、その低粘度ニトロセルロースを用いて自動車塗料「デューコ」を商品化します。それまで自動車の色はブラックが主流でしたが、青色のテゥールブルーでGM(ゼネラルモータース)の1924年オークランドモデルに塗装し、モーターショーで大々的に発表して成功します。その後フォード以外の自動車メーカーは油性エナメルから「デューコ」に置き換わります。
ニトロセルロースラッカーは工業用塗装の先駆けとなりましたが、自動車だけでなく木工塗料や家庭用塗料などに用途が広がります。

 

 

 

私の若い頃の話ですが…

 

化粧品のマニュキュアにニトロセルロースを使っていることを聞き、好奇心から作って見たことがあります。レシピですが、ニトロセルロースを溶かす溶剤には、臭いを考慮し甘いエステル系の溶剤から酢酸エチルを主体に酢酸アミルを選びました。着色には、光輝性のホワイトパールと赤色染料を微量添加してパールピンク色にし、最後に硬くて脆いニトロセルロースを少し柔らかくさせるため、可塑剤を少量添加して完成します。
除光液は、速乾のアセトンを主体に酢酸アミルを少し加えて臭気を和らげ、さらに溶剤によって爪、皮膚が白くなるのを防ぐためにひまし油を少々添加しました。
洒落たガラス小瓶が手に入らなかったので、仕方なくブリキ小缶に詰めて会社の女性にプレゼントしました。やはりブリキ缶は不評でしたがリピートオーダーがありましたので、試作マニュキュアはまずまずの出来栄えであったと自負しています。
秘密ですが、プレゼントした女性は現在の私の奥さんです(笑)
また、同じようなマニュキュアを飲み屋の女の子にバラまいた、悪質な先輩がいたことを思い出しました。

 

nail polish on white background

 

 

 

セルロイドの話

 

少し時代は遡りますが1856年のイギリスで、ニトロセルロースに可塑剤として樟脳を加えた熱可塑樹脂が発明され、その後の1870年アメリカで、ビリヤードの玉の原料として実用化に成功しセルロイドと名付けました。

 

Billiard balls in a green pool table, game

 

セルロイドは低温で加工することが可能なため色々な成型物に利用されます。私の小学校のころは、セルロイド製品が溢れており、身近なものではメガネフレーム、下敷き、筆箱、小物入れ、万年筆、ピンポン玉、キューピー人形などが作られていました。
我が国では低粘度タイプのニトロセルロースの入手が困難であったことから、メーカーは不明ですが最初のニトロセルロースラッカーとして、セルロイドを溶かして作ったザボンラッカーと呼ばれる塗料があった様です。

 

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余談ですが…

 

そのころの子供の遊びで鉛筆キャップロケットが一時流行りました。
セルロイドの下敷きを小刀で削って細かくし、アルミ製の鉛筆キャップに詰め込んでペンチで端をつぶします。つぶした所をロウソクの火で炙ると、中のセルロイドに火が付きロケットの様に白い煙を吹き出して飛んで行くのですが、それを見て感激したものです。ただし、ロケットの飛ぶ方向が定まらず危険なため、すぐに学校から禁止令が出てがっかりした思い出があります。
その後はセルロイド製品が原因の火災が多発し、他の樹脂に置き換わり知らぬ間に身の廻りから無くなって行きました。

 

 

 

油変性アルキッド樹脂の話

 

ニトロセルロースに次ぐ合成樹脂の技術革新は、1901 年のグリセリンと無水フタル酸によるアルキッド樹脂合成の発明でしたが、無水フタル酸が非常に高価であったことから当初は接着剤でしか用途はありませんでした。その後の1916年、無水フタル酸は新たな製法の開発によって安価に作られるようになり、1927年アメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)のキーンルはエステル交換の技術を用いて、油、多価アルコール、多価カルボン酸による油変性アルキッド樹脂を次々に開発したことにより塗料への応用が広がります。

油変性アルキッド樹脂の中にはニトロセルロース・ラッカーと乾燥が同じで、塗料の濃度が3倍も高く仕上がりに優れる塗料が作れることから、競合のGMと繋がりがあったデュポンが販売している「デューコ」を快く思っていなかったフォードが採用することになります。

 

アルキッド樹脂はアルコールと酸の反応から得られる合成高分子なのでポリエステル樹脂となるのですが、発明者のキーンルがアルコールのALと酸のアシッドのCid(kyd)を組み合わせた合成名でアルキッド(Alkyd)と命名します。

 

油変性アルキッド樹脂は(油の種類と量)×(酸の種類と量)×(アルコールの種類と量)を変化させることで無限に組み合わせができるため、多くの特長を持った樹脂の合成が可能になりました。そして長らく塗料の主流を占めていた油性塗料が合成樹脂塗料時代に移り変わります。

 

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また油変性アルキッド樹脂塗料は油の量(油長)で分類されています。油の量が45%以下は短油性と呼ばれて工場塗装の焼付塗料、ニトロセルロースラッカーの可塑剤として45〜55%は中油性と呼ばれ、車両用・産業機械に使われるフタル酸樹脂塗料に、55〜65%は長油性と呼ばれ合成樹脂ペイント、70%以上は超長油性で合成樹脂調合ペイントになります。

 

昭和の中頃になりますが、我が国の商品としてはフタル酸樹脂塗料ではボデラック(日ペ)フタリット(関ペ)タイコー(大日本)、合成樹脂調合ペイントではCRマリンペイント(日ペ)SDホルス(関ペ)がありました。
余談ですが商品名の由来はCRマリンペイントのCRはチョーキング・レジスタンス(白亜化防止)から、SDホルスのSDは粘度の記号のずり応力=Sとずり速度=Dから命名したと聞いています。

 

 

 

合成樹脂年表

 

1833年スウェーデンのベルツェリウスは、化学反応で得られる樹脂状の物質を「ポリマー」(たくさんの意味)と名称して研究発表するのですが、これらの研究が高分子化学を飛躍的に進化させることになりました。新たに見つけられた合成樹脂がすぐに塗料に使用できることは少なく、発明後に研究が重ねられて塗料用樹脂として使われるようになります。

 

以下に19世紀から20世紀前半に発明された代表的な合成樹脂を示します。

 

1832年(仏)ニトロセルロース(1)
アンリ・プラコネーが綿と硝酸で処理をして粉末状樹脂を発見しキシロイジンと命名する。

 

1838年(仏)塩化ビニル
アンリ・ヴィクトル・ルニョーが塩化ビニルを日光にさらすと高分子化することを発見した。

 

1845年(瑞西)ニトロセルロース(2) 
クリスチアン・シェーンバインが硝酸と硫酸で硝酸化度の高いニトロセルロースを作り出すことに成功し、火薬として使用する。

 

1868年(米)セルロイド
ジョン・ハイアット兄弟が象牙のビリヤート球をニトロセルロースに樟脳を加えたセルロイドで作ることを可能にした。

 

1872年(独)フェノール樹脂(1)
アドルフ・フォン・バイヤーはフェノールとホルムアルデヒドから樹脂状物を作ることを発明した。

 

1901年(英)アルキッド樹脂(1)
スミスが初めてグリセリンと無水フタル酸から樹脂を合成し特許を出願する。

 

1919年(独)フェノール樹脂(2)
クルト・アルベルトはフェノールに官能基を付けることに成功し油に溶けるフェノール樹脂を開発する。

 

1923年(米)ニトロセルロース(3)
デュポンが低粘度ニトロセルロースの製造方法を発見し、それを用いた自動車用ラッカー「デューコ」を発売する。

 

1927年(米)アルキッド樹脂(2)
ゼネラルエレクトリックのキーンルが油変性アルキッド樹脂を発明し多様な樹脂の開発が可能になった。

 

1933年(独)アクリル樹脂
ローム・アンド・ハースの創業者のオット・レームがアクリル樹脂を発明し、メタアクリル樹脂の工業化がなされる。透明性に優れることから有機ガラスと呼ばれて爆撃機の風防ガラスに使用される。

 

1934年(独)ウレタン樹脂
デュポンとIGファルベンがほぼ同時に研究を開始するが工業用として実用化されるのは1950年以降となる。

 

1935年(米)メラミン樹脂
デュポンのウィリアムF・タルボットがメラミンとホルムアルデヒドの反応によりメラミン・ホルムアルデヒド樹脂を合成する。

 

1938年(瑞西)エポキシ樹脂
ピエール・カスタンによりビスフェノールA型が発見され特許が申請されて1948年にエポキシ樹脂を工業化されて普及する。

 

 

近代塗料の夜明けは成熟までまだ続くのですが、皆さんもこの様な小難しい話はそろそろ飽きてこられたと思いますので、歴史はその都度、触れることにいたします。
次回テーマに迷っていますが、「外装塗材の興隆」についてお話しすることにしたいと思います。